「母さんとぼくは、バンドエイド、アルコール、過酸化水素でいっぱいの戸棚がある家で暮らしていたわけではない。おとぎ話を読んで寝かしつけられていたわけでもなかったし、生活費、食料貯蔵室、食べ物でいっぱいの冷蔵庫、洗濯機と乾燥機もなかった。ぼくらは南部の歪んだ黒人家族で、そこにはいつも笑いと、とんでもない嘘と、本があった」
黒人女性政治家の母を持つキエセ。母の輝かしいキャリアとは裏腹に、彼は幼いころから差別、貧困、虐待、性暴力を目の当たりにしてきました。
黒人であるがゆえに否定され、行動を抑制される。その不条理に苦しみ、息子に鞭打ちつづける母。
そして、母の心の痛みを全身で受け止めながらも、自分の目で物事を見つめ、抗えない力に対し、疑問を持ち続けるキエセ。
彼が生きてきた時間を振り返りながら、見出したものとは。
いわゆる「ディープ・サウス」のミシシッピ州ジャクソンで生まれ育ったアフリカ系アメリカ人の作者が、母に向けて書いた、自身の回想録。
家族や恋愛、友人、仕事などに囲まれて生きる、個人の視点で、素直に語られているからこそ、読者の心に、直接響きます。
黒人差別を考える手がかりとしてはもちろん、ささやかでも差別や、社会の中での生きにくさに悩んだことがあるひとも、ぜひ。