目の前の風景からはなれていくように、心が漂い出ていったり、どこからともなく聞こえてくる、いろんな声を聞いたり。
家でひとり、そんな奇妙とさえ言える日々を生きている、ノア。
彼の家に満ちる静かな空気、「オーパル」という人からの親愛のこもった手紙、父や母らとすごした日々の記憶…。
一見つながりのない断片が、一つずつ積み上げられていくかのように語られていきます。
(たいせつな二人のひとにふれた記憶について)
「どちらも損なわれてしまった手を窓ガラスに当てていると、両手が彼の心に持ちかえるメッセージは長年ずっと不完全だったのだと考えざるをえない。でもひょっとすると完全だったのかもしれない。ひょっとするとまったく完全だったのかもしれない。ノアには区別がつかない」(本文より)
上に引用した作中の一節は、この『インディアナ、インディアナ』という物語の全体にもつながっているよう。
見ているもの、感じているものの不完全さ。そして、不完全であるがゆえに完全であるということ。
手ごたえのなさこそがほんとうらしい、一人一人の世界そのもののような作品です。
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(ここからはスタッフ望未の個人的感想です。)
この本とともに日々を過ごしている間じゅう、ずっと物語の世界のことをおもってしまう。それも、残りのページが少なくなっていくことを、ほんとうに惜しい、と感じながら。
…私自身にとっては、そんな作品でした。
そして同じような気持ちできっと、この物語を求める人がいるのでは、と確信しております。
まだ出会ってはいないけれど、しらずしらず出会う日を待っている人に、きっとこの物語が届きますように。