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小川洋子/作
角の傷みあり
考えている時のブラフマンが僕は好きだ。普段落ち着きのない尻尾も、思慮深くゆったりとしている。眉間に寄るT字形の皺はりりしくさえある。チョコレート色の瞳は静けさで満たされ、僕には見えないどこか遠くを見つめている。愛らしすぎて、悲しくなる
(本文より)
〈創作者の家〉と呼ばれる芸術家ためのの宿泊施設で、洗濯や送迎などの世話をする「僕」。ある日、建物の裏庭のゴミバケツの中に潜む、傷だらけの小さな獣をみつけます。「僕」は獣の手当てをし、ミルクを与え、「ブラフマン」と名付け、ともに暮らしはじめるのですが…。
物語全体に漂う、森のように美しい静けさと暗さに惹きつけられます。