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村上春樹/作
講談社
「もし記憶の引き出しみたいなものが自分の中になかったとしたら、私はとうの昔にぽきんと二つに折れていたと思う。どっかしみったれてところで、膝を抱えてのたれ死んでいたと思う。大事なことやらしょうもないことやら、いろんな記憶を時に応じてぼちぼちと引き出していけるから、こんな悪夢むたいな生活を続けていても、それなりに生き続けていけるんよ」
ある日の夜11時55分。浅井マリは「デニーズ」の店内に。姉の浅井エリは長い眠りの中にいる。ふたりの姉妹と、彼女たちを取り巻く人々の過ごす夜明けまでの時間を、カメラで映し出すように捉えた小説。真夜中特有のしずかな空気が物語全体に漂い、読み手の体までも包み込むようです。