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須賀敦子/作
みすず書房
背表紙に日焼けあり
実像のトリエステにあって、たぶんそこにはない詩の虚構をたしかめようとするのは、無意味ではないか。サバの何を理解したくて、自分はトリエステの坂道を歩こうとしているのだろう。さまざまな思いが錯綜するなかで、押し殺せないなにかが、私をこの町に呼びよせたのだった。その《なにか》は、たしかにサバの生きた軌跡につながってはいるのだけれど、同時にどこかでサバを通り越して、その先にあるような気もしたトリエステをたずねないことには、その先が見えてこなかった。
(「トリエステの坂道」より)
二十年前に息を引き取った夫と一緒に読んだ詩人・サバ。
サバの愛したイタリア東端の都市・トリエステをひとり訪ねる「トリエステの坂道」ほか、全12編どれもが、物語のように美しいのです。