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南木佳士/作
文春文庫
財布をポケットにしまって大きく息を吸い込んだところに、塀の下から母猫と二匹の子猫が帰ってきた。子猫が足もとにじゃれつく、母猫が餌をねだってふくらはぎに頭を擦りつけてくる。その、萎えた筋肉の奥の骨膜にまでとどく力強い頭突きの感触が、まだこの身を必要としてくれる存在があるのを教えてくれた。
(本文より)
医師として勤めながら小説を書いていた38歳のとき、うつ病の診断を下される。
やるせなさ、死にたさを抱える日々に安らぎを与えてくれたのは、家の近所に現れた猫たちだった…。
素朴な文体で淡々と語られるからこそ現実味があり、現実味があるからこそ身近に感じられ、日々とともに存在してくれるような南木佳士の作品。中でも「猫」が登場する本作は、より身近に感じていただけるはずです。